(出典)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20081030/318172/?ST=ep_webpluse
セマンティックWebをめぐる動きが、最も激しいのは、インターネット分野である。米グーグルの存在があるからだ。グーグルに打ち勝つために、米ヤフーや米マイクロソフトは、セマンティックWebへの取り組みで先行することで、次なるパラダイムシフトを生み出そうとしている。
Yahoo!が提供する「SearchMonkey」は、Yahoo!の検索インフラである。Webサイトの開発者やサイトオーナーは、WebサイトにSearchMonkeyを組み込むことで、Yahoo!の検索結果に、商品やサービスのレビュー情報、コンタクト先、地域情報など、種々のデータを組み合わせて表示ができる(図1)。
SearchMonkeyの裏にあるのが、「セマンティックWeb(Semantic Web)」というテクノロジである。構造化データをWebの世界でうまく扱うための仕組みだ。セマンティックWebの考え方や基礎研究はずいぶん前から取り組みが進んでいる。それがここにきて、各方面での研究開発が進んできたことにより、いよいよ現実味を帯びてきた。
最近、「Web3.0」というキーワードが、Webにかかわる人々の間で語られ始めている。そして、Web3.0のカギを握るのが、セマンティックWebであるとも言われている。Web 3.0とセマンティックWebが同義かどうかは別として、筆者はWeb 3.0を実現するコア技術がセマンティックWebであることは間違いないとみている。そこで本稿では、特に断らない限り、セマンティックWebとWeb 3.0を同列に扱っていく。
セマンティックWebをめぐる動きが、最も激しいのは、インターネット分野である。そこには、米グーグルの存在がある。同社は、過去8年間、Web検索の分野でトップに君臨し続けてきた企業と言って間違いないだろう。競合他社がグーグルに打ち勝つには、検索機能に漸進的な進歩を加えるだけでは、もはや不十分である。全く異なるWeb体験を作り出すような、パラダイムシフトが求められている。
ヤフーや米マイクロソフトはセマンティックWebの取り組みに積極的である。以下では、ヤフー、マイクロソフト、そして追われる側であるグーグルの動きを見ていこう。
ヤフーは2008年5月15日、冒頭で紹介した検索プラットフォームのSearhMonkeyを一般公開した。それまでは限定公開にとどまっていた。同時にSearchMonkeyの普及を促すために、「SearchMonkey Developer Challenge」コンテストを始めている。
SearchMonkeyの最大の特徴は、データ形式などに、セマンティックWebの業界標準をサポートしていることである。よりユーザーの意図に沿った形に検索結果を調整したり、検索結果に付加価値を付けたりできるようになる。Webサイトのオーナーは、「セマンティック・マークアップ」(業界標準のデータ形式などを記述するタグ)をWebサイトに付与することで、構造化データをYahoo!と共有できる。
ヤフーの狙いは、セマンティックWebをベースにしたこの検索プラットフォームを開放することで、開発者やサイトオーナーを取り込むことにある。SearchMonkeyを使ってユーザーの検索体験を向上させるサイトが増えれば、ヤフーのプレゼンスは高まる。
SearchMonkeyの普及促進に向けヤフーは、3つのサービスをSearchMonkeyの標準アプリケーションとして加えると、2008年7月31日に発表した。ビジネス利用に特化したSNSの「Linkedin」(関連記事)、地元の企業や店のレビューを掲載するサイト「Yelp」、ヤフーが運営する地域情報サイト「Yahoo Local」である。
これら3つのサービスとの連携により、SearchMonkeyの検索結果には、Linkedinのコンタクト情報やYelpのレビュー情報、Yahoo Localに登録された地元企業の情報が付加される。企業は、Yahoo Localの情報やYelpに掲載された企業のレビューをチェックしながらコミュニケーションしたり、Linkedinに登録されている人と連絡を取り合ったり、といったことが容易にできるようになった。
LinkedinとYelpは、Yahoo!と構造化データを共有するパートナーという位置づけである。ヤフーは、「これらのアプリケーションは事前にテストしたところ、ユーザーからの評価が良好だった。クリックスルー率が15%も向上する事例が出た」と説明している。
セマンティックWeb対応が進むIE8
一方マイクロソフトも、セマンティックWebへの取り組みを急速に強化している。一番の注目株が、2008年3月5日(米国時間)にベータ版を公開した「Internet Explorer(IE) 8」だ。業界標準への準拠を強く意識しているほか、セマンティックWebを実現する新技術も搭載した(関連記事)。
IE8に搭載されたセマンティックWeb関連機能の1つが、Webページ内の文字列が持つ意味を解釈する「WebSlices」のサポートである。WebSlicesが規定するタグを使って、Webページ内の文字列について、「これは住所」「これは商品情報」「これはプロフィール情報」といった形で意味を解釈する。Webページ内にある商品情報を自動的に検索対象として加えたり、アドレス帳に自動登録したり、といった動作が可能になる。
検索市場におけるマイクロソフトのシェアは10%程度(コムスコア調べ)である。6割を握るグーグルには、大きく遅れをとっている。合従連衡で対抗するという狙いから2008年春に試みたヤフーの買収も頓挫した。同社に残された選択肢は、革新的な検索エンジンの独自開発、または小規模な買収による検索機能の向上に限られてきた。
その一例が、マイクロソフトが2008年7月に正式発表した、自然言語検索技術の開発会社である米パワーセットの買収だ。パワーセットは自然言語処理をコアにした検索エンジンを開発しているスタートアップ企業である。検索クエリの言葉の意味を理解し、それに対する回答を表示できるのが最大の特徴だ。
マイクロソフトが、パワーセットの買収にあたって考慮したのは次の点である。まず、現在の検索エンジンはクエリのコンセプトやコンテクストを理解できないため、適切な回答をもつWebを特定できない点だ。マイクロソフトは「検索ユーザーの3分の1は検索の最初のクリックで適切な答えが得られていない」と述べている。また検索結果の説明文に表示されている内容とリンク先のページの概要が異なることがよくある。このため、「結果としてユーザーは答え(欲しい情報)に到達できていない」(マイクロソフト)。
これらの問題を解決するためには、検索エンジンが検索意図を正確に理解し、Webページの意味を理解できなければならない。マイクロソフトは、「それを実現する革新的技術がパワーセットにある」と評価したわけだ。具体的な実現手法はさておき、マイクロソフトがパワーセットに注目した利点は、セマンティックWebの考え方に沿うものである。
セマンティックWebの動向を見極めたいグーグル
では、グーグルはどうだろうか。2008年5月に米カリフォルニア州で開催された「2008 Semantic Technology Conference」において、Googleの検索担当者であるFernando Pereira氏が講演した。同氏のコメントを聞く限り、グーグルはまだセマンティックWebを代替技術だとはとらえていないようである。当面は、他社の動向をにらみつつ、セマンティックWebへの移行が必要になった場合には、買収や提携という手段で対応するつもりではないだろうか(図2)。「他社が先んじても、グーグルなら十分追いつける」という自信が、同氏のコメントの端々からにじみ出ていたのが印象的だった。
グーグルが採用した統計的アルゴリズムは、正確で十分な機能を持っている。Googleの検索市場シェアは60%以上(コムスコア調べ)を占める。さらにマイクロソフトによるヤフー買収提案劇に乗じて、2008年6月にまとめたヤフーとの提携のおかげで、同社の市場でのポジションはますます強化されることになる(ただし、グーグルの10月5日の発表によれば、市場独占問題を調査する米司法省との話し合いが続いているため開始時期は延期)。その契約によれば、Yahoo!の検索結果の隣にGoogleの広告を掲載できるようになる。
ヤフーとの提携によってグーグルは検索の優位性を高められる。それだけでなく、グーグルはヤフーというもう一つの雄と手を組むことで、市場シェアを脅かすあらゆるものに備えた“追加の保険”に入ることになったとも言えるだろう。
だが、マイクロソフトによる検索市場への挑戦は決してささやかなものではない。画像検索など、一部の技術を取り上げてみれば、グーグルより優れている部分もある。ヤフーとマイクロソフトそれぞれのアプローチは異なるが、Webプラットフォームに大きな影響力をもつ両者の動きは、セマンティックWebの開発機運を高めるだけでなく、グーグルの独走を止める可能性もある。
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