分かりやすい例は?
電子辞書、字を大きくできる・・・
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20100521/214542/?P=1
5月28日、いよいよ米アップルのパッド型端末「iPad(アイパッド)」が日本で発売になる。iPadはパソコンがないと使い始めることができない。パソコンに接続し、Apple IDを入力して、iPadをアクティベーション(認証手続き)する必要がある。iPad WiFi-3Gモデルであれば、ソフトバンクモバイルの店頭においてアクティベーションを代行してくれるのであろうが、WiFiモデルでは、パソコンが必須となると思われる。
iPadの存在を知った時に、思ったことが2つある。それは、これは究極のシニア端末になるのではという点と、10年前とあるメーカーから発売された端末にコンセプトが酷似している点。順に触れていきたい。
1歳の娘から86歳の祖母まで使いこなせる
私は普段、アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」を使っているが、あのインターフェースの使い心地は飽きることがなく、日がな1日触り続けるいわゆる“iPhone症候群”に陥っている。パソコンをずっと同じ姿勢で使い続けると、姿勢性症候群になるらしいのだが、それのiPhone版といったところか。こうした事態に陥るのは、一重にそのユーザーインターフェース(UI)が格別だからである。iPhoneが最も成功したのは、何万ものアプリケーションやデザインではないと思う。ただ1点、あの「サクサク感」が、今のユーザー急増を生んでいるのであろう。
そして、このiPhoneのUIは、私の1歳の娘も一瞬で使いこなすようになるし、86歳になった祖母も軽々と扱う。正確には、写真を撮影して、それを指でなぞり動かしたりマルチタッチで縮小拡大したりする操作である。IT(情報技術)リテラシーという単語を適用できないほど、ITに全く慣れ親しんでいない人でさえ、軽々とユーザーにしてしまうiPhone。であるがゆえに、iPadは究極のシニア端末になるのでは、と思ったのである。
しかし、パソコンがなければアクティベートできない。コンテンツ配信サービス「iTunes Store(アイチューンズ・ストア)」を考えた場合、この仕組みは当然理解できるわけであるが、究極のシニアビジネスに活用できる端末になるのでは、と考えていた筆者には少しばかり冷や水をかけられた気分である。
ウェブビジネス業界では最後のフロンティアとしてシニアビジネスへの展開が熱い。テレビでインターネットが利用できる「アクトビラ(acTVila)」もITリテラシーの低いシニアが重要なターゲットの1つである。慣れ親しんだテレビのリモコンでならば、シニアでもインターネットを使うのではないか。そこからネット通信販売の市場がテレビ経由で拡大するのではないか。そういう目論見がある。
また、任天堂のゲーム機「Wii(ウィー)」もシニアビジネスへの展開を考えている。複雑な操作を必要とせず、必要最低限のボタンしか搭載していないWiiリモコン。テレビに向け、直感的に方向を変えるだけで操作ができるという点で、シニアユーザーを取り込もうとしている。
iPadがシニア消費を生み出す可能性
今回iPadが提供する「メモアプリ」は、縫い糸のステッチや革の質感までをも再現した作りとなっている。ここまで、「本物」に見かけを近づけるのには、ワケがある。つまりは、これまでリアルの世界で慣れ親しんできた「動作」というものを、直感的に誘発させようとしているわけである。
この分かりやすさがあるゆえに、iPadは究極のシニア端末となりえる。
価格競争、デフレ、消費停滞、そういうネガティブなワードが連呼されている。日本の個人金融資産は1439兆円、そのうち現預金が790兆円。この内の多くの部分を、まだITを通した消費には向かっていないシニアが保有している。この眠れる巨大な資産を消費に回すきっかけをiPadのような端末は与えうる。
例えば、iPadをデジタルフォトフレームとして活用し、米グーグルの写真共有ソフト「Picasa(ピカサ)」などと連携、孫の写真が定期的にアップロードされる仕組みを作り込んだとする。ついつい祖父母たちは写真をなぞる。動かす。拡大する。顔部分に触れるかもしれない。自分が送ったTシャツ部分に触れるかもしれない。孫が手に取っているアンパンマンの人形部分をなぞるかもしれない。
画像解析とともに、どういった部分を触れたり、拡大したりしたのかをログデータとして蓄積し、分析する。iPadディスプレイの左部分は、従来のiPhoneアプリと同様に写真を閲覧するスペースで利用し、右部分には、そうした動作に応じた「お孫さんにお勧めのおもちゃがあります」という言葉とともに、様々な乳児・幼児用玩具が並ぶ。右下には、「孫に送る」という決済ボタンとともに――。
民営化関連で話題が尽きない日本郵政であるが、各地方都市を回る郵便局員に次のような「iPad取次ぎ業務」を付与してはどうだろうか? パソコンを活用したアクティベートの代行(3Gモデルの場合は携帯代理店が実行)。シニアが必要とする9つのアプリダウンロード(つまりはカスタマイズ)、定期訪問による使い方指導。こうすることで、地方部1000万人に、世界とつながる端末を行き渡らせ、新たな消費を喚起する。まさにユニバーサルサービスの一形態と言えるのではないだろうか。
営業現場の「見える化」を実現
iPadの可能性は、シニア端末としての活用だけではない。営業現場を一変させるだろう。営業担当者はプレゼンテーションソフトを使ったセールス活動から、営業を受ける側にとってはこれまでのつい眠くなってしまうプレゼンテーションから、解放されるかもしれない。解放されるかもしれない。営業資料そのものの作り込みを変えていく必要がある。
ほんの数カ月先の営業現場では、次のようなシーンが垣間見れるようになることだろう。営業担当者は、テーブルの上にiPad端末を置く。まず、iPadという新たなガジェットを使わせてあげるということで、最初のアイスブレークは間違いなく成功する。続いて、「ではここを触れてみてください」と声をかけて、自社製品を宣伝する営業資料アプリを立ち上がらせる。「気になるところは、どんどん触れてみてください」。顧客はついつい気になるところに触れてしまう。直感的に。そうすると、触れた部分に関する宣伝文句をiPadが話し出す。
営業というものが、営業マンが自社製品の良さをアピールするプレゼンテーションから、顧客のほうから気になるところをどんどんと触れ、勝手に内容を理解していく。そういうスタイルへと変わる。そんな場面に出くわすこともありえないことではない。
ひとしきり「さわり」終えたところで、画面に4つのボタンが現れる。「今すぐに購入を決める」、「社内で前向きに検討する」、「今はこちらの商品を購入するタイミングではない」、そして「こちらの商品は残念ながらお客様のニーズには答えていない」。
この画面が出たところで、営業担当者は「いかがでしょうか?」とまた声をかけるのである。
さて、ここまで来たところで、読者の皆さんはお気づきだろう。こうした営業が繰り返されてくると、次の情報が蓄積されるようになる。しかも自動的に。この商品の営業資料アプリのどこを顧客が触れたのか。どの順番で触れたのか。どの説明を長く聞いたのか。または聞いていないのか。そうした顧客の関心事項と、それに触発された「指の行動」というログデータが蓄積されることとなる。最後の購入意向とともに――。
今、様々なSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)が存在する。営業担当者の営業力というものを底上げするために用いられている場合が多い。ところが、営業現場で何が起こっているのかを、データとして吸い上げるのは難しい。しかし、iPadを活用して上記のような営業資料アプリを作成することで、顧客の現場での「生の反応」というものを蓄積できる可能性を持っているのである。今まで見えていなかったデータの「見える化」が可能となる。新たなビジネスチャンスがここにある。
ただし、1点気をつける必要がある。カフェテリアなどの外で営業活動を行う場合である。太陽の下で、テーブルに置かれたiPad。光の反射具合で、少し見えにくい場合もあるだろう。iPadを15度ほど傾けて置くスタンドを営業担当者は持ち歩かねばならないだろう。
似たコンセプトは10年前、日本にあった
「エアボード」。この名前をいまだに覚えている人はどれくらいいるのだろうか。ソニーが2000年の9月に発表した製品である。
タッチパネルで、電子メールとウェブブラウジングでき、もちろんデジカメの写真も閲覧ができる。通信はワイヤレス。家の中で持ち歩いて利用する「テレビ」がエアボードの正体である。
2000年9月に発売されたエアボード
これが今から10年も前に発表された製品というから驚きである。機能にしても、みかけにしても、相当iPadに近い。そう、酷似しているコンセプトは、とっくに日本で生まれていたのである。
当時、「時代を変える端末なのではないか」とIT業界では注目を集めたものだ。実を言うと、その頃は大学院でコンピューターの研究に勤しんでいた筆者も、この端末が出るや否な、この開発部門に直接採用面接に応募をし、内定までいただいたことがある(最終的には、一身上の都合で断らざるを得なかった)。それほどこの端末コンセプトは、生活を変えるのではないかと思った。
エアボードがなぜ失敗したのか。理由は2つある。時代が早すぎた。そして、コンテンツ、プラットフォーム、ネットワーク、ハードウェアという要素をトータルで考えた製品・サービス作りとはなっていなかった。これからは何を作るのかということが問われる時代ではない。iPadとて、コンテンツからハードウエアまでトータルで考えられているからこそ、消費者のニーズをつかむのだ。類似のただのデバイスならば、もはや世界中のメーカーが作ることができる。グーグルとの提携を発表したソニー。このエアボードの教訓がどこまで活かせるだろうか。
エアボードとiPadの比較
サービスレイヤー | エアボード | iPad |
---|---|---|
コンテンツ | 特別なアプリケーションが提供されるわけではない | 10万を超えるiPhoneアプリケーションが利用可能なうえに、オープンプラットフォームによって世界中の数百万人もの人がiPad用アプリケーションを開発する |
プラットフォーム | 2000年当時は楽天など電子商取引市場は萌芽期であり、インターネットといえば、ニュース情報などを見るだけの利用 | iTunes、AppStore、iBookなど著作権問題をクリアした決済プラットフォームが提供されている |
ネットワーク | 56kbpsモデム内蔵 | WiFi(802.11 a/b/g/n)54Mbps |
ハードウェア | 10.4インチの液晶 タッチパネル 解像度:800×600 1.5kg 駆動時間:1時間 | 9.7インチの液晶 マルチタッチパネル 解像度:1024×768 680g(3Gモデルは730g) 駆動時間:10時間 |
iPadが利用が最も増える場所
以上述べてきたように、iPadはこれまでの生活やビジネスの現場を激変させる力を持っていると筆者は感じている。少し利用シーンを想像してみるだけで前述のようなものを挙げることができる。
最後に、「これは究極のリビング端末」という呼び声があるが、iPadが来ることで一番ネットの利用が増える場所がある。それはリビングではないトイレだ。
iPadユーザーの多くは、ついついiPadを抱えてトイレに行くだろう。iPadはトイレという空間を激変させるかもしれない。
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